T.はじめに
今回アスベストに関するレポートを書くにあたり、2つの文献と以前授業で見たビデオの内容を参考にした。その結果今まで自分が気に留めていないだけで、実は社会的に重大な問題となっていることに気がつかされた。これより、アスベストの社会的問題などをテーマと関連付けて下記に記す。
U.選んだキーワード
アスベスト
環境曝露
V.選んだ論文の内容の概略
アスベストを原因とする中皮腫は、ほとんど突然のように平成17年(2005)にマスコミを賑わせた。平成17年6月29日に(株)クボタが石綿関連疾患の発生状況を公表したのだ(いわゆるクボタショック)。しかし、医学的あるいは環境衛生学的には、そのずっと以前から問題視されていたことは周知のことである。確かに日本はアメリカ、フランスなどの諸外国と比べるとアスベストに関する社会問題が公に広まるのも、その対応も遅れていて、そのことが問題として指摘されている。といのも世界保安機構(WHO)や国際労働機関(ILO)では1972年にアスベストを発ガン物質として認定し、日本を除く諸外国ではこれをきっかけに急激に使用量が減少したが、我が国では使用禁止の検討がなされたものの、適当な代わりとなる物質が見つからなかったことや経済の利益重視のために結論は先延ばしされ、石綿製品の製造が完全に禁止されたのは2004年である。
石綿曝露による中皮腫や肺がんなど石綿関連疾患の発症には潜伏期間があるといわれ、その期間は約30年といわれている。我が国ではアスベストの使用のピークは1970、80年であり、今後その潜伏期間を終える被曝露者の石綿関連疾患の発症が危惧されている。
アスベストは建築物に多く使用されていて、製造作業者のみならず工場周辺の住民、建築現場の作業者、建築物の利用者(住居者や学童など)などの多くの人々がその影響を受ける。そのために、行政的に多くの省庁がかかわる問題となっていること、また中皮種の初期ないし早期病変が充分に把握されていないことに加え、中皮腫に特異的な分子あるいは遺伝子の変化も見出されておらず、分子生物学的レベルでのガン発生の機序もほとんどわかってないことなどが我が国の社会的な対処が遅れた原因になっている。
これより医学的問題の背景における社会的、歴史的背景を重視して問題を考えていこうと思う。
W.選んだ論文の内容と、ビデオの内容から、自分自身で考えたことを、将来医師になる目で捉えた考察
@社会的背景
今回アスベストと環境曝露をキーワードとして調べた結果をのべる。
世界的には今から20年前国際労働機関(ILO)が開催され、ここでアスベストの使用に関する条約及び勧告が採択された。このアスベストの安全利用に関する討議の結果アスベスト曝露にともなう危険性から労働者の健康を守るためのとして、行政・教育・健康など様々なことを関連させて基本的事柄を規定するアスベスト条約が採択された。しかし日本では批准までにそれより20年の期間がかかり、平成17年6月30日の(株)クボタが石綿関連疾患の発生状況を公にしたのを発端に、ようやく平成17年の国会においてアスベスト条約が承認された。
このように社会的に一挙に問題化したアスベストの問題に政府も対応するために経済産業省、環境省がアスベストに関する調査状況やQ&Aを発表した。
経済産業省はアスベスト含有製品の製造企業93社からの情報提供により把握した結果は健康被害483名(うち死亡者391名)であると発表した。
厚生労働省は労災保険および船員保険の認定状況から把握した数字として、平成16年度以前に労災認定の労働者が所属していた事業場(482事業場)に係わる労災認定件数は743件、死亡者は603件であった。
運輸関連企業について、国土交通省は関係団体の傘下会員等(160474名)を対象として調査を行なった結果、健康被害170名(うち死亡者129名)と報告した。
周辺住民についての実態把握に関しては環境省が発表した。保健所等による健康相談を通じて周辺住民の健康被害に係わる情報を集約している。
消防庁は過去10年間の消防職員および退職者について調査した結果、中皮腫3名(うち死亡者2名)なお、アスベストとの因果関係は不明。
実に多岐の官公庁が関係していることがこれらからよくわかる。このように様々な官公庁が相次いで報告を行い始めたり、アスベストに関する会合も開かれ、単に行政の一部にとどまらない影響が社会を包み込んだと言えるのではないだろうか。
A歴史的背景
我が国ではアスベストはほとんど国内生産がないため輸入に依存してきた。しかしまったく国内生産がないわけではなく、第二次世界大戦中は国内産に頼らねばならず、石綿鉱床開発がしきりに行なわれたようである。戦後以降はまたほとんどが輸入された。
輸入拡大の背景として、我が国では1960年頃からの高度経済成長期で多くの建築物が建造されたことが挙げられる。
1975年には、特定化学物質等障害予防規則が改正されて、吹きつけアスベストは原則禁止となったが、その後も他の物質と混合させての吹きつけ作業が行なわれていた。
以上をまとめると、国際的には問題視され使用を禁止する国が相次ぐ中で、この事実は、我が国は依然として経済成長期に合わせて経済面の重視という時代の流れに乗り産業が回っていた証拠ではないだろうか。
Bアスベスト(asbestos)とは?
ここでアスベストとは何なのか説明したいと思う。
ILOの定義によれば『アスベスト(和名:石綿)とは岩石を形成する鉱物の蛇紋石および角閃石グループに属する繊維状の無機珪酸塩』となっている。簡単に言えば、アスベストとは繊維状の構造を呈する鉱物資源ということで、その特性として、糸や布に織れるなどの扱いやすさと、牽引・摩擦に強く、断熱性・防音性・耐電性などにすぐれるなどがあり、なおかつ安価であることから経済価値を持つ鉱物として太古の昔より世界中で使用されてきた。しかし、その様々な産業で利用の出来る形状が仇となり、人体に重度の害を催すことがわかった今、今なお残されている高度経済成長をピークとしてアスベストを使用した建造物や製品についての対処が今後の大きな問題とされている。
またアスベストは人体に吸収されてから症状を呈するまでの潜伏機関が長いと言われている。我が国ではアスベストのリスクは何度も指摘されながら時代の流れの中で実質的な規制は先延ばしにされてきた。アスベスト対策を強化しているイギリスの安全衛生庁はイギリスにおける過去のアスベスト曝露による中皮腫および肺がんによる死者は毎年3500人以上に上ると推測し、その数は2010年まで増加していくと予測していた。中皮腫による死亡者数は2011年から2015年ごろにピーク迎えるとしている。我が国ではイギリスよりほぼ10年遅れて1970年代にアスベスト使用のピークがある。ということは日本における中皮腫あるいは肺がんのピークは2020年ころからが本格的な社会的健康問題となることが予測される。
C難しさの理由と今後
先述した通り、アスベスト問題はいわゆるクボタショックが起こる前々から知れわたっていた。ではなぜ平成17年まで社会的な問題とならなかったのだろうか。
1つはアスベストが及ぼす影響に対応する行政の多岐性が挙げられる。健康影響に関しては、一般的な健康問題は厚生労働省が対応すれば済むことが多い。エイズやハンセン病はほとんど厚生労働省の問題であった。しかし今回の問題は多くの省庁、つまり厚生労働省をはじめ、環境省、総務省、文部科学省、経済産業省、国土交通省さらに多くの地方自治体にわたっている。
このように関係する省庁が多ければ多いほど問題は複雑化され簡単な短期間での解決は不可能となるのである。
2つめとしては、アスベストは潜伏期間が長く、また中皮腫の自然史の不明さである。アスベストは潜伏期間として一般的に30年から38年とされている。潜伏期間が極めて長いことは現状では治療が困難であることと併せて、患者の不安とともに医療側の対応の難しさを増している。また中皮腫とアスベストの因果関係も特定されていない。
しかし、平成17年からはさまざまな処置がとられ、『アスベスト問題に関する関係閣僚による会合』では平成20年までに前面禁止を達成するため代価化を促進するとともに、全面禁止の前倒しも含め、さらに早期の代価化を検討するとの方針が出された。また、新たに『石綿則』が定められたりした。
このように行政としてのアスベスト問題に対する色々な対応がとられてきたのである。昔から危険性に関しては危惧されていただけあって、問題が公になってからの行政の対応は早い方ではないだろうか。複雑化している省庁の関係からも根本的なアスベスト問題の解決は時間がかかるが、まずはアスベストの被害をこれ以上広げないための応急処置をすぐにとることは重要である。
また、今後の医学的事項に関する取り組みとしては、医師を含む専門家チームにより様々な会合が開かれている。文部科学省はアスベスト起源の悪性中皮腫の早期診断・治療に関する研究として、順天堂大学及び放射線医学総合研究所を中心に進めている。これは、一般的に治療が難しいとされる悪性中皮腫だがその理由のひとつとして早期発見の困難さにある。診察時点では手遅れになっているケースが多いのだ。このためこの研究は多数のアスベスト曝露群から効率的、かつ高精度の診断システムを開発するために設置されたものである。
今後の政府の方針としても、さらなる代価化の促進と建設物等の解体等の作業における石綿曝露防止策として、解体作業における法令の徹底化や専門家による解体時におけるアスベストの飛散の範囲の見直しなどがなされている。また、労災補償を受けずに死亡した労働者、家族及び周辺住民の被害への対応は被害の実態把握を進めつつ、引き続き検討することとされている。
産業医等にも次のような対応が望まれている。
『石綿の有無等の確認に関する事業場に対する指導』
『建築物等の解体等における曝露防止のための指導』
『事業者・労働者等に対する啓発、相談対応等』
『石綿曝露労働者の健康管理』
『中皮腫等の患者発生に際しての対応』
これらの事項を基本とし被曝露者、また曝露危険者の指導を現場でおこなっている。
X.まとめ
今回のレポートとビデオ学習で色々なことに気づかされた。いかに今まで自分が社会問題について無関心であったかを恥じた。今後もっとニュース、新聞をみて社会に興味を持っていこうと思う。
アスベストによる石綿関連疾患患者のピークは2020年だと先述した通りである。そのころ私達今の学生がちょうど医師になり、ある程度の経験をつんだ頃だろうか。日本の過去の高度経済成長から始まった経済発展の裏にある、環境破壊や汚染物質による環境や人体の汚染のひずみが今出てきているのだろう。私は将来医師になり、直接的にこれらの問題と直面しなければならないとき、医師としてしっかりとした対応がとれるようになりたい。そのためにもこのレポートをきっかけとして、政治・経済・社会などに興味を持ち、そしてそれらの事柄について自分の考えをもっていこうと思う。